5 違法性を判断するためのポイント(2)

 商品先物取引が極めて危険な取引であることから、顧客保護のための種々の法的規制等が行われています。
 商品先物取引業者側がこれらの規制等に違反することは、顧客保護をないがしろにするものであり、不法行為における違法性を判断する上での重要な要素となります。
具体的には、次のようなものがあります(「法」とは商品先物取引法のことで、「規則」とは商品先物取引法施行規則のことです)。

のみ行為の禁止
 商品取引員が、受けた委託について、商品市場 (商品取引所)につながずに、自己がその相手方となって取引を成立させることの禁止(法212条)。

不当な勧誘の禁止
 次の勧誘行為は禁止されています。

  •  顧客に対して、不確実な事項(例えば利益が出る等)について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げて勧誘すること(法214条1号)。
    この禁止に対する違反については、商品先物取引法自体が、商品先物取引業者の損害賠償責任を定めています(法218条4項)。
  •  商品取引契約の勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げること(法214条2号)。
    商品取引契約の締結に関して虚偽のことを告げることも禁止されています(法214条2号)。
  •  取引の委託又は申込みを行わない旨の意思(勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示した顧客に対し、勧誘すること(法214条5号)。
  •  顧客に対し、迷惑を覚えさせるような仕方(夜間・早朝、勤務時間中の時間帯や顧客の意思に反した長時間にわたる方法等)で勧誘すること(法214条6号)。
  •  勧誘に先立って、顧客に対して会社名と商品取引契約の勧誘である旨を告げずに、勧誘すること(法214条7号)。
  •  勧誘に先立って、商品取引契約の勧誘を受ける意思の有無を確認せずに、勧誘すること(法214条7号)。
  •  同一の商品取引所の同一の商品について、同一の限月の売建玉と買建玉を同一枚数保有すること(完全両建て)を顧客に対して勧めること(法214条8号)。
  •  商品取引契約(政令で定められたものに限る)の勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問し、又は電話をかけて、商品取引契約の締結を勧誘すること(委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として規則102条の2で定める行為を除く。)(不招請勧誘)(法214条9号)。
  •  顧客に対し、あらかじめ損失補填等の申込みや約束をして、勧誘すること(法214条の3第1項第1号)。
  •  特別の利益を提供することを約して勧誘すること(法214条10号、規則103条1項5号)。
  •  取引単位を告げないで勧誘すること(法214条10号、規則103条1項6号)。
  •  取引に係る勧誘に関して、重要な事項について誤解を生ぜしめるべき表示をすること(法214条10号、規則103条1項8号)。
    取引の受託に関して、重要な事項について誤解を生ぜしめるべき表示をすることも禁止されています。
  •  勧誘する目的があることを顧客にあらかじめ明示しないで、顧客を集めて勧誘すること(法214条10号、規則103条1項10号)。

一任勘定取引の禁止
 商品市場における取引等又は外国商品市場等につき、取引の注文を行う際に顧客が指示しなければならない事項(数量、対価の額又は約定価格等)について、顧客から指示を受けないで取引の注文を受けることの禁止(法214条3号)。

フロントランニングの禁止
 顧客の注文を受けた場合に、当該注文を執行する前に、注文を受けたのと同一の取引を、より有利な取引価格で、自己のために行うことの禁止(法214条4号) 。

委託者の利益を害する向かい玉の禁止
 故意に、商品市場における取引の受託に係る取引と自己の計算による取引を対当させて、委託者の利益を害することとなる取引をすることの禁止(法214条10号、規則103条1項2号)。

無断売買の禁止
 顧客の指示を受けないで、顧客の計算によるべきものとして取引をすること(受託に定める場合を除く。)の禁止(法214条10号、規則103条1項3号)。

仕切り拒否の禁止
 決済を結了する旨の意思を表示した委託者等(特定委託者及び特定当業者を除く。)に対し、引き続き当該取引を行うことを勧めることの禁止 (法214条10号、規則103条1項7号)。

理解していない顧客から両建てを受注することの禁止
 数量又は期限が同一ではない両建てであっても、その取引を理解していない顧客(特定委託者及び特定当業者を除く。)から受注することは、勧誘していなくても、禁止されています(法214条10号、規則103条1項9号)。

適合性原則違反
 法215条は、「商品先物取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引業を行わなければならない。 」と定めています。
 これを適合性の原則と呼んでいます。
 この適合性の原則に照らして不適当と認められる勧誘及び不適当と認められるおそれのある勧誘の例が、「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」(農林水産省・経済産業省)の18頁以下に示されています。
 具体的には、次のようなものです。

○ 適合性の原則に照らして不適当と認められる勧誘

  •  未成年、成年被後見人、被保佐人、被補助人、精神障害者、知的障害者、認知障害の認められる者に対する勧誘
  •  生活保護法による保護を受けている世帯に属する者に対する勧誘
  •  破産者で復権を得ない者に対する勧誘
  •  商品デリバティブ取引(商品先物取引はこれに含まれる)及び取引所現物取引をするための借入れの勧誘
  •  損失が生ずるおそれのある取引を望まない者に対する勧誘
  •  取引証拠金等の額を上回る損失が生ずるおそれのある取引を望まない者に対する、取引証拠金等の額を上回る損失が生ずるおそれのある取引の勧誘
  •  法令により例外的に許される不招請勧誘を受けて商品取引契約を締結した者(直近の3年以内に延べ90日間以上にわたり商品デリバティブ取引(損失限定取引を除く。)を行った者を除く。)に対する、最初の取引を行う日から90日間における、取引証拠金等の額が投資上限額(当該顧客の年収と保有金融資産額との合計額の3分の1の額を上限とした額)の3分の1の額に達することとなる取引の勧誘

○ 適合性の原則に照らして不適当と認められるおそれのある勧誘

  •  年金、恩給、退職金、保険金等により生計をたてている者に対する勧誘
  •  一定以上の収入(例えば、年間500万円以上)を有しない者に対する勧誘
  •  投資可能資金額を超える損失を発生させる可能性の高い取引に係る勧誘(取引を継続することにより、投資可能資金額を超える損失が発生する可能性が高い場合に、当該取引の継続を勧める行為を含む。)
  •  高齢者(例えば75歳以上の者)に対する勧誘
  •  デリバティブ取引の経験がない者に対する勧誘

説明義務違反

○ 仕組み・リスク等の説明義務

 商品先物取引業者は、商品取引契約を締結しようとする場合には、あらかじめ、顧客に対し、取引の仕組み・リスク等(商品先物取引のように、取引証拠金等の数倍から数十倍の額の取引を行うレバレッジ取引の場合に、取引の額が取引証拠金等の額を上回る可能性があること、レバレッジ比率、損失の額が取引証拠金等の額を上回ることとなるおそれがあること等)について、法217条1項に定める「書面」(契約締結前交付書面)を先に交付した上で、対面若しくは電話による口頭で、又はインターネット等を介した方法で説明する義務があります(法217条、218条1項、規則104条~107条)。
 この説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該商品取引契約を締結しようとする目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければなりません(法218条2項)。

○ 向かい玉の場合の説明義務

 商品先物取引業者が、顧客から取引の委託を受けようとする際、故意に、同一期限の同一商品について、受託に係る取引と自己の計算による取引を対当させる取引を行っている場合には、顧客に対し、そのような取引を行っている旨、及び委託に係る取引と商品先物取引業者の自己の計算による取引が対当した場合には、顧客と商品先物取引業者との利益が相反するおそれがある旨を、説明しなければならず、この説明をせずに顧客から取引の委託を受けることは禁止されています(法214条10号、規則103条1項21号)。


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