4 違法性を判断するためのポイント(1)

 商品先物取引業者側に一連の不当・違法な行為があったのか否かを判断するために、実際の取引および計算関係に認められる客観的特徴を指標とする場合、以下のような代表的な指標があります。

【特定売買比率】
 特定売買とは、①直し、②途転(どてん)、③日計り(ひばかり)、④両建(りょうだて)、⑤不抜け(ふぬけ)と呼ばれている取引であり、行われた取引のうちこれらの特定売買に該当する取引の割合を特定売買比率といいます。

 「直し」は、既存の売り玉(又は買い玉)を仕切るとともに、同一日内で新規に売り玉(又は買い玉)を建てることをいいます(異限月を含みます)。このような取引は、既存の建玉をそのまま維持するのと何ら変わりはなく、徒に取引回数を増やして委託手数料の負担がかさむだけ顧客にとっては有害無益です。

 「途転」は、既存建玉を仕切るとともに、同一日内で新規に反対の建玉を行うことをいいます(異限月を含みます)。途転は、相場が逆に展開することを予想しているときに行うとされていますが、そのような予想外の相場展開の際には、仕切るべき玉を仕切ってしばらく取引を休むのが常道であり、無定見・頻繁にこのような取引を行うと、いたずらに委託手数料の負担を増やすだけに終わる取引です。

 「日計り」は、一日のうちに建玉をし、その日のうちに仕切ることです。一日では大した値動きもないのに、手数料ばかりかかることから、手数料稼ぎの徴表と評価されます。

 「両建」は、既存建玉に応させて反対建玉を行っていることをいいます(異限月を含みます)。両建は、両建したときに損金が実質的に確定するので、この時点で既存建玉を仕切るのと何ら変わりはなく、新規に反対玉を建てる点で委託証拠金、委託手数料の負担がかさむだけ顧客にとって有害無益なものです。

 「不抜け」は、売買取引により利益が発生したのに、その利益が委託手数料より少なく、売買益が手数料で食われて差引損になっているものをいいます。顧客にとって、手数料の巾を抜けられない限り利益はないのですから、特別の事情がない限り顧客にとって不合理な取引です。

 以上のような特定売買の危険性・不合理性については、過去の裁判例でも指摘されています。
 このような特定売買の割合(特定売買比率)が高い場合には、先物取引業者の手数料稼ぎのために顧客の利益が犠牲にされたと評価することができ、勧誘から取引終了までの一連の行為の違法性を判断するための有力な指標となります。

 なお、かつては行政が農水省チェックシステムと通産省MMT(ミニマムモニタリング)と呼ばれる指導基準に基づき、先物取引業者に特定売買比率等を報告させ、それをもとに行政指導等を行っていました。
 これらの指導基準は平成11年に廃止されていますが、これは行政による事前規制の緩和という流れの中で行われたもので、民事的な不法行為を判断する上での指標としての意味がなくなったわけではありません。
 そもそも、「規制緩和」一般に通じる議論ですが、行政による事前規制が緩和されたからこそ、司法による事後救済が重要となっているのです。
 もともと、行政がこれらの基準によって特定売買比率等を報告させ、それをもとに行政指導等を行っていたのは、特定売買比率の高い取引には委託者保護の点で問題があるからです。このこと自体は、これらの行政指導基準の廃止によっても変わりはなく、先物取引業者側の不法行為を判断する上で、特定売買比率は依然として意味のある指標だといえます。

【手数料損金比率】
 手数料損金比率とは、取引で損金が発生した場合に、損金の中に占める委託手数料の割合を見る指標です。損金のうち、どの位の割合を手数料名下に先物取引業者が直接取得したのかを端的に示す指標です。
 一連の取引が、顧客のために行われたのか、あるいは顧客を犠牲にして先物取引業者の利益を追求するために行われたのかという、違法性判断の指標の一つになります。

【売買回転率】
 売買回転率とは、取引回数を取引期間の日数で割ったものです。
例えば、全取引回数を200回、全取引期間を60日として売買回転率を算出すると、0.3日に1回(月平均100回)という計算になります。
取引回数は、建てて仕切る毎に1回と数えます。分割して仕切る場合は、それぞれを1回に数えます。
 高い売買回転率は、先物取引業者による手数料稼ぎにつながりますので、これも違法性判断の指標の一つとなります。

【利乗せ満玉】
 利乗せ満玉(りのせまんぎょく)とは、委託証拠金の限度一杯の取引を行い、建玉を仕切った場合に生じた益金を顧客に返還しないでこれを証拠金に振り替え、その増加した証拠金で建玉可能な限度一杯の取引を継続することをいいます。
 相場が予想と反対に動いた場合は、それまでに預託した証拠金と生じた利益金を失うばかりか、多額の差損金が発生しかねません。
 利乗せ満玉をした後、仮に相場の予想が当たったとしても、さらに利乗せ満玉を行えば、また同じ状況になります。むしろ、建玉数が増大した分、相場の予想が外れた場合の危険の大きさは膨張することになります。
 利乗せ満玉を繰り返せば、一度相場の予想が外れただけで、それまで預託した証拠金全額と益金全額を失うことになり、さらにそれ以上の差損金が発生する場合もあるのです。
 一般の顧客にとって相場予想は困難であり、繰り返し予想を的中させることなど不可能ですから、利乗せ満玉を繰り返せば、確実にどこかで破綻することになります。
 このように、利乗せ満玉は、顧客にとって極めて危険で不合理な取引手法だといえます。
 もし先物取引業者の勧誘により繰り返し利乗せ満玉が行われていたのであれば、先物取引業者側の一連の行為の違法性が強く疑われるといえます。

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