<医療問題>

 人々にとって医療はとても身近なものですが、ときに予期しなかった悪い結果が生じることがあります。
 もともと医療には限界がありますから、適切な医療行為を行っても悪い結果が避けられないということは、よくあることです。「医療の不確実性」といわれたりします。

  しかし、中には、医療行為が適切ではなかったと疑われる例もあります。
 そのような場合、患者側にとっては、「医療の不確実性」の一言で片付けられるのではなく、医療行為が適切に行われたのかどうかを正確に説明してもらえるかが、重要になります。

 多くのケースでは、医療機関側から患者側に対して医学的な説明がなされ、患者側もそれを受け容れて終わりますが、患者側の疑問や不信感が残る場合もあります。
  理不尽なクレームを言ってくる、コミュニケーションが取りづらい、説明してもそれを理解する能力がないといった、患者側に問題があるケースが存在することは否定しませんが、そうではなく、医療機関側の説明内容や姿勢に問題があるケースも、残念ながら存在します。

 例えば、千葉県がんセンターでは、平成20年から同26年、腹腔鏡下手術を受けた患者11人が手術後短期間に相次いで死亡するという問題が発生し、第三者による検証委員会が設置されて、平成27年7月15日、同委員会の最終報告書が提出されました。

 この報告書には、次のように書かれています。

 「また、病院側が医療事故の可能性があると認識していても、そのことが患者家族に説明されていない場合や、事故調査を行ったにも関わらず、患者家族に報告書を用いて説明が行われていないなど、患者家族への事後説明が不足している事例が認められた。」(30頁)

 「その後、2013 年1月に、術当日の死亡(事例1)と術翌日の死亡(事例2)が報告され、腹腔鏡下手術に係る問題意識を、がんセンターと病院局とで共有することとなった。この報告を契機に、病院局では、報告対象となった手術術式の実施を休止とするとともに、死亡事例に対する検討を指示した。これを受けてセンターでは、外部委員を加えた院内医療事故調査委員会を設置し、報告書がまとめられた。しかしながら、当該報告書の患者家族への説明及び公表についてセンターと病院局で検討されているが、結果的に、公表も家族への説明もされなかった。また、センターにおいても、この報告書の指摘事項に関する病院内関係部署等への周知が十分になされず、具体的な対応が実施されなかった。
 この経過の中でまず指摘できるのは、外部委員が参加した院内医療事故調査委員会によって、重大な倫理的な問題が指摘されたにも関わらず、その報告書を、公表もなく、家族にさえ説明しなかったという点である。組織的に隠ぺいが意識されているというふうに受け止められかねず、そのことがその後の外部への通報の発端となったとも考えられる。患者の不安を煽るだろうといったような理由で、その出来事を事なかれ対応ですますということもあるが、行政が求めている管理と、現場で行われている先端医療の実態とに乖離があるというのが、現状ではないかと考えられる。
 また、医療事故調査委員会まで開いているのに、その後に改善策の立案もなく、改善に向けた取組も行っていない。改善策の立案・実行について、一義的にはセンターの役割と考えられるが、院内医療事故調査委員会報告で指摘された問題の重大性を考慮すれば、病院局としても、センターの対応に対する厳しいチェックが必要であったと考えられる。」(33頁)

 このように、病院側が医療事故の可能性があると認識し、院内事故調査が行われて報告書が作成され、その中で重大な倫理的な問題が指摘されているのに、そのことが患者側に説明されていなかった例があるのです。
 ここでは、改善策の立案もなく、改善に向けた取組も行っていなかったことが指摘されており、やはり、患者側に対する真摯な説明がない医療現場では、医療安全に向けた取組も行われないのだということが分かります。医療安全と患者側に対する十分な説明は、表裏一体のものだと思われます。

 さて、医療機関側の説明が不十分で患者側の疑問が解消しない場合、患者側はどうしたらよいでしょう。
 できることとしては、(1)自治体の医療安全相談窓口に相談する、(2)他の医療機関の医師にセカンドオピニオンを求める、(3)医療問題を取り扱っている弁護士に相談するといったことが考えられます。
 そして、これらの結果をみてどうするかを考えるということになります。

  なお、2015年10月から、医療法第6条の10以下に基づき、対象を「死亡又は死産」に限定した医療事故調査制度がスタートしました。この調査結果は遺族に説明されるため、患者側にとっては、医療行為が適切に行われたのかどうかを解明する選択肢が増えました。
 しかし、この制度の対象となるためには、(1)医療に起因し又は起因すると疑われる死亡又は死産であること、(2)病院等の管理者が予期しなかったことが要件となっており、実際にどのように運用されるのか、注目していく必要があります。


【解説】 誤診と損害賠償責任について考える

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